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先週一週間、中国全土が'真っ赤'に染まった。
7月1日の偉大なる中国共産党創建90周年を記念して、
全国で百花繚乱のイベントが挙行されたからだ。
北京で垣間見た、現代版「赤化運動」の一端を紹介しよう。


6月15日より、中国中の映画館が一斉に、
中国共産党の創成期を美しく描いた国策映画、
『建党偉業』の上映を始めた。

これは2年前の'前例'を踏襲したものだ。
一昨年10月の中国建国60周年を記念して、
『建国大業』という国策映画が創られ、
中国を代表する有名俳優・監督ら172人が総出演した。
監督は、「中国映画界のドン」こと韓三平・中国電影グループ会長である。
この二匹目のドジョウを狙って、やはり韓三平会長が、
中国を代表する有名俳優・監督ら178人もを総動員させて
『建国大業』を創り上げたというわけだ。
余談だが、出演したスターのうち主役級の26人が、
すでに中国国籍を捨てて外国国籍を取得していることが
インターネット上で暴露され、大騒ぎになった。

公的機関や国有企業では、
「『建国大業』鑑賞日」なるものが設けられ、
職務の一貫として、この国策映画を鑑賞させられた。
私は中国共産党員ではないが、
記念すべき7月1日に、『建党大業』を観に行った。

私が観た市内東部の繁華街のシネコンでは、
何と4つのシアターで一日に、
朝から深夜まで計15回も『建国偉業』が上映されていた。
自社の新作映画の公開を7月中旬に控えたある映画関係者に聞いたところ、
「本来は6月後半に全国公開予定だったが、
『その時期は「建党偉業」があるからダメだ!』と
急遽当局のお達しが出て、7月中旬まで延ばされた」とボヤいていた。

だが折からの大雨もあってか、
115席もあるのに、客は私と、営業マン風青年の二人だけ! 
しかもその青年は、いかにも「タダ券もらったし、
映画館はクーラーが効いているから入った」という感じで、
すぐに鼾が聞こえてきた。

内容はと言えば、
ややエンタメ色を出しながら中国共産党の正当性を描くという、
2年前の『建国大業』と同じ展開だった。
歴史というのは勝利者のものだと、つくづく感じた次第である。


今回の共産党の記念日に先がけること2ヵ月ほど前から、
商談のアポイントを取った中国人から、
直前になって「社内で急用ができたので、面会を1時間遅らせてほしい」
といった連絡が頻発するようになった。
ある時、ショートメールを見忘れてそのまま出かけて行ったら、
先方の会社の正門前の庭先で酷暑の中、50人ほどが声を張り上げて、
「♪我が紅い太陽、毛沢東主席が掲げる紅旗は高くはためき・・・」と、
合唱の練習をしているではないか。
久々に「紅歌」(中国共産党賛歌)を生で聴いた。

また別の会社を訪問した時には、小会議室で商談をしている最中に、
隣の大会議室で突然、「紅歌」の練習が始まった。
喧しくて仕方ないが、
対面した中国人曰く、「紅歌には誰も逆らえません」。

このように、全国の公的機関や国有企業の職員たちが総動員され、
各地区の「紅歌コンテスト」に参加させられた。
まさに同情を禁じ得ないが、北京人の知人曰く、
「北京はまだマシだよ。
重慶なんか、3200万人市民全員に、
計36曲の『紅歌ベスト』を暗唱させると当局が宣言して、
大変なことになっている。
6月29日には、『10万人紅歌合唱会』まで開かれたほどだ」。

そう言えば私も先月、長春に出張に行った時、
市内最大の文化広場で、「紅歌コンテスト」が開かれ、
大量の市民が動員されていた。
かつて日本の関東軍が創った満州国の帝宮広場も、
いまや'真っ赤っか'に様変わりした。


このところ書店へ足を運んでも、
赤色の表紙の本が、入口に山積みにされている。
時節がら大学受験の案内書かと思いきや、そうではない。
「紅書」と呼ばれる中国共産党礼讃本である。
「紅書」の'分派'で、
「紅星書」(中国共産党スター礼讃本)と呼ばれるシリーズもある。
入口どころか、児童書のコーナーにも、
絵本に混じって『党旗飄飄 小学校低学年向け』など、
「少年紅書」が山積みにされていたのには驚いた。
ちなみに中国では、大学受験に
「政治」という中国共産党の正当性と偉大性を学習する科目がある。

「紅書」「紅星書」は、
一体誰が好んで買うのかと言えば、一般市民ではなくて、
主に公的機関や国有企業、党機関などが、まとめ買いをするのだ。
そのため、『中国共産党最初の一筆』(丁暁平著)と
『最良の党員を作る』(呉甘霖著)の2冊が現在、
それぞれ全中国ベストセラーの1位と4位に輝いている。
おかげで長期不況が叫ばれる中国の出版業界は、
束の間の「紅泡」(共産党バブル)に沸いているのだ。


「中国共産党の偉大なる歴史を学ぼう」というキャンペーンが
マスコミで展開され、「紅史特集」が目白押しである。
中国中央電視台(CCTV)では、毎日のニュースの時間帯に、
「偉大歴程」と題された、
模範共産党員たちを紹介する特集番組が流されている。
また、特別大河ドラマ『井崗山』(全36話)が連日、放映中だ。
井崗山は、毛沢東が1927年に初めて
パルチザンの革命拠点にした江西省の山である。
気になって一話分見てみたが、
ストーリーが冗漫で、かつ毛沢東役の王雨英の演技がイマイチだった。

中国国営新華社通信は、
このほど『我が100年の前半生』という本を上梓した、
101歳の「党創建を知る将軍」の長い手記を打電した。
この三審陽在住の曽思玉将軍は、1910年生まれで、
片親の貧民家庭に育ち、13歳で雑貨屋務めを始め、
16歳で共産党革命に参加。毛沢東の長征に同行し、
新中国建国後は朝鮮戦争に出征し、1955年に中将に昇進・・・と、
まさに人民解放軍の生き証人とも言える人物だ。
思えば90年代前半くらいまでは、
この手の人たちがゴロゴロしていたが、いまや本当に希少価値になった。


旅行業界も、「紅泡」の恩恵に授かろうと、負けてはいない。
中国共産党の革命ゆかりの地を周遊する「走紅路ブーム」が、
全国各地で起こっている。
新華社通信が、全国12ヵ所の「重点紅色旅遊景区」を指定したのを始め、
各旅行代理店が、それぞれの地域で「走紅路ツアー」を組んでいる。

だがこれらのツアーは、一般観光客向きではなく、
専ら公的機関、国有企業、党機関、学校などの「団体様向け」である。
私の知人にも、このほど北京近郊の石家庄の
「走紅路ツアー」に参加してきたという中国人がいる。
彼に感想を聞いたところ、日本語に直訳すると、
「旅行に行かされてきた」という表現していた。


北京の街じゅうに、真っ赤な花が飾られた。
天安門広場も真っ赤っか。
国貿も建国門も東単も西単も、見事に赤く染まった。
私の通うオフィスビルさえ、1階受付に真っ赤な活花がデーンと置かれた。
花を活けに来た業者に聞いたところ、
「この時節、バラやカーネーションなど、
真紅の花は価格が2倍になった」という。
「着色剤に漬けて紅く塗って2倍で売る業者もあるが、
われわれはそんなことはしない」と、
聞いてもいないことまで教えてくれた。

6月29日晩には、
北京の人民大会堂で『我々の御旗』と題した歌謡ショーが開かれ、
胡錦濤総書記や、ヨーロッパ歴訪から帰国したばかりの温家宝首相など、
中国共産党幹部が勢揃いした。
中国の4つのテレビチャンネルが、同時に放映する力の入れようである。
この歌謡ショーでは、「紅歌」の数々や革命寸劇などが披露された後、
最後は共産党トップ9人も登壇。
『♪我々は初日の出を迎える・・』という歌詞で始まる、
建国60周年記念の紅歌『復興へ向けて』を、
全員で斉唱して幕となったのだった。

続く6月30日午前には、
天安門広場東手にオープンして間もない中国国家博物館で、
「永遠に党と共に歩む」と題された特別展のオープニング式典を開催。
胡錦濤総書記の後継者に内定している習近平副主席が挨拶に立った。
また同日午後には、温家宝首相が北京南駅に駆けつけ、
北京-上海新幹線の開通式典で挨拶。第1号車にも試乗し、
「偉大なる共産党の成果」を強調したのだった。

90周年当日の7月1日には、あいにくの驟雨にもめげず、
朝から中国共産党成立90周年大会が開かれた。
祝賀の特別スピーチを行った胡錦濤総書記は、
「中華民族は偉大な復興を遂げた!」と力説した。

私はこのスピーチを、出勤途中の地下鉄の車内テレビで見たが、
朝のラッシュの中、大音量で車内や駅の構内で流していた。
新聞各紙も特別号を組んでいて、一面を赤く染めている。
党の機関紙『人民日報』を買ったら、
「(中国共産党は)永遠に人民のために奮闘する」と題した、
長い社説を掲載していた。

こうした一連の「90周年イベント」は、
一外国人の目から見れば、「壮大なマスターベーション」に映る。
だが、8027万人もの中国共産党員が、
皆で一斉に一方向にエネルギーを'放出'すれば、
世界に恐れるものなど、何もないのかもしれない。


http://gendai.ismedia.jp/articles/-/10869


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